Sofa Stories Sofa Stories

ソファストーリーズ

ソファはいつも暮らしのまんなかにある。

一人もの思いに耽る時
親密な二人の空間
わっと花の咲く家族の賑わい

ぜんぶ抱きとめるソファは、あつく、寛大で、やさしい。

四季折々、日々折々
名前のつかない一つひとつの日常の
暮らしの些細を覚えている。

陽のにおいも、夜の静けさも、
すいもあまいも染み込んで、
ただ、いつもでもそこに。

それぞれのソファに織りなす物語。

水がきらめいて流れていくように。
ソファと小さな娘、掃除の時間

「がんばれ! がんばれ!」。娘の声援が元気にリビングに弾んでいく。ぴょん、ぴょん、と跳ねるようにクイックルワイパーをもって走ってくる。娘用に柄を短くしてあるので、彼女用にあしらえられたアイテムのようにみえる。

週に一度は全員揃ってリビング掃除。ソファを持ちあげて下の埃もきれいにする。ちょっと動いただけで体がじんわりと汗ばむ。もう5月か。来月には、娘はもう4歳だ。

娘の“はじめての応援”は、クッションにちょこんと座って、だったのに。この1年での娘の成長は、このソファと掃除にも、ぎゅっと詰め込まれている。

・・・

私も夫も、ふたり揃って建設業勤めなのもあって、建物に関するこだわりは強い。自分たちの家をもつと決めたとき、ものすごい注文住宅を建てそうだよね、と周りからは言われていたものの、逆にその大変さも知っていたために「しっかりとコンセプトがあって、大好きになれる戸建て」を探した。2年経ってもこれというのが見つからず、見晴らしもいいしマンションも検討しようかと考えはじめたところで、いまの家に出会った。1階が寝室、2階がお風呂と子ども部屋にもなりそうな広いスペース、3階がリビング。そして、リビングから見える川。春をむかえる季節、水面がきらきら、ちかちかと光って、まるで昼間の星空のように思えた。

内覧の帰り道の車中「この家なら、何年ローンで、月々いくらくらいなんだろうね…」という重たいため息は、かえってふたりともが「どうしよう、この家がいい」と考えている証拠だった。

この時、娘はまだ2歳。おむつも外れていない娘と、3階建てかつ、かような様式は生活の相性がいいとはいえない。それでも「この家がいい」というふたりともの直感に従ってみるのは、どうしても名案な気がした。私たちが大好きだと思える家は、きっと娘の大好きな家になる。将来、娘がどこにいようと「帰ってきたい、大好きな家」になるはず。「家に合わせて、3人らしい生活をしてみようよ」。大好きだと思える家と暮らしを3人で築いていこう、と決めたのだ。

だからこそ、家のお掃除もみんなで念入りにやる。週に一度、リビングのソファもちゃんと持ちあげて。このソファだが、買う際に一番悩んだのは“脚の高さ”だった。掃除がしやすいよう、掃除機が楽にかけられる高さがよいと思ったが、それは3歳の娘にはまだ高い。悩んだ末「娘が大きくなるまでは、ソファをふたりで持ちあげよう」に落ち着いた。

それから毎週、私たちがソファを持ちあげるときには、娘が「がんばれ! がんばれ!」と応援してくれるようになった。

最初は、ソファを持ちあげるとわざわざ埃っぽいところに寄っていく娘を止めるための策だった。クッションの“特等席”を用意して「パパとママ、お掃除頑張るから、応援してほしいな!」と言うと、「がんばれ!がんばれ!」。体いっぱいの声で、掃除が終わるまで応援してくれた。

いまではだんだんと自我がでてきて、応援しながらも「はるちんもやる!」と、クイックルワイパーで参加する。クイックルワイパーと一体になって、スイスイと泳いでいくようにみえる。娘がかけたあとの床は小さな水の流れができていくみたいだ。チラチラと、わずかに濡れて光る。

先日、ヘッドまでを短くした掃除機をもたせてみると大層気に入っていたので、遠からず掃除機も娘の役割になるのでは、と思う。夫に似て几帳面なところがあるので、そのうち「ママの掃除機がけって、おおざっぱ!」と言われるのでは、と、薄々感じている。

Sofa Stories

掃除を終えた日中にお昼寝をするのだが、娘がソファで夫はソファの真下。なかなかおもしろい光景だと思う。最近は、大小で買った大好きな海の生物のぬいぐるみを、それぞれの腹あたりにのせて昼寝をしている。
だいぶ暖かくなったこの季節、寝転がるしなやかな2体とリビングから見下ろすきらめく川を交互に見比べる時間が、私はたまらなく好きだ。

Illustration by fujirooll
Text by SAKO HIRANO (HEAPS)