Sofa Stories Sofa Stories

ソファストーリーズ

ソファはいつも暮らしのまんなかにある。

一人もの思いに耽る時
親密な二人の空間
わっと花の咲く家族の賑わい

ぜんぶ抱きとめるソファは、あつく、寛大で、やさしい。

四季折々、日々折々
名前のつかない一つひとつの日常の
暮らしの些細を覚えている。

陽のにおいも、夜の静けさも、
すいもあまいも染み込んで、
ただ、いつもでもそこに。

それぞれのソファに織りなす物語。

5.5畳、2人掛けソファを置いた
小さな宇宙。夫婦の一人部屋

私と夫がそれぞれの時間を過ごす部屋、5.5畳。 どうしてあと半畳広くしなかったものか...と悔しがったこともあったが、いまはこの「0.5」も悪くないと思っている。0.5の部分がぽっこり出るような部屋の形。そこに机をはめ込んでみると、小部屋の中の小部屋に居るような感じで、仕事も捗った。週末には、夫もこの部屋を書斎として使っている。

それぞれが「一人で好きな時間を過ごす部屋」になってしばらくして、湧いてきたのは「映画が見られる部屋にしたい」という欲だった。私の長く続いている趣味といえば映画で、趣味部屋なのであれば、ぜひとも映画も見たい。一脚ソファを置いてみるのはどうだろうか。一席しかない、私だけの映画館。限られたスペースを考えても一脚がベストな選択だろう。

圧迫感がなくてくつろげるものがいい。映画を見るのに2時間以上座り続けても、体が疲れないもの。なんだったら、2本連続上映だってしたいのだ。どこで買おうかと考えて、以前オットマンを購入したソファブランドのことを思い出す。結婚する際に母と選んだ、いわば嫁入り道具のソファをできるだけ長く大切に使い続けるために買い足しを考え、ぴったりと合うものを見つけられたブランドだった。

・・・

ショールームに行くと、思わぬ助言を受けた。

「2人掛けも見てみませんか」

部屋、5.5畳なんです! と、口にするよりも早く、心の中で反射的に応える。しかし、見せてもらったハイバックの二人掛けは座面が低いために、思ったよりも圧迫感がない。いいかもしれない。色味も、ベージュやグレーを考えていたが鮮やかなブルー系を勧められ、えいやっと小舟に乗り込む気持ちで思い切ってそうしてみた。

ブルーグリーンのハイバックソファを、我が家に迎え入れた日。鮮やかな色味が一人部屋に風を吹き込んだ気がした。安心感と、湧いてくるワクワク感。

プロジェクターで映画を流せば、暗闇に光の帯が流れていく。小さなほこりも煌めいて、ブルーグリーンのソファがぷかぷか浮いている。まるで、小さな宇宙だ。ソファを真ん中に、私と夫、それぞれが一人に戻る小さな宇宙。

ソファが届いてから初めて見た映画は『空飛ぶタイヤ』だ。昔、何度も見た『グッド・ウィル・ハンティング』『ブリジッド・ジョーンズの日記』も、もう一度見た。教えてもらった「クッションを脇に挟む」使い方で、何時間座っていても疲れなかった。

土曜の一人映画を習慣にして数週間が経つ頃、「一緒に見ていい?」と夫がやってきた。そういえば、学生時代には映画館でバイトをしていたと言っていたっけ。

月に一度、お互いの好きな映画を見てみたが、これはあんまり上手くいかなかった。夫はノンフィクションものが好きなので、それぞれの好みに走るときは一人で見るように戻した。たまに二人でも見られそうな作品がある時、二人掛けに並んで座って見る。二人の時は、ワインを少し飲んだりする。冬には温かい飲み物を用意して、大きなブランケットにくるまって見ているとき、二人掛けにしてよかった、と思う。トム・ハンクス主演の名作『フォレスト・ガンプ』は、二人で見たほうが楽しめることも発見だった。

一人ならば「何本でも」な私だが、いまのところ、2本が限界だ。 カリカリ、という音で、この小さな宇宙から出るべき時がわかる。部屋の扉を、前足で掻く音。

昨年、6歳になる柴犬が我が家にやってきた。 繁殖犬を引退した子で、ニッカ、という名前がついていた。変えてもいい、と言われたが、6年もそう呼ばれていたのなら引き継いであげたほうがよいかもしれないし、お酒も好きなのでなかなかいいかもと思い、そのまま引き継ぐことにした。

誕生日はわからない、とも聞いたので、10月に決めた。朝は夫が、夕方は私が、ニッカと毎日歩く。前よりずっと健康になった気がする。

ドアを開けて、ニッカを入れてやる。 空気がふっとぬるくあかるくなって、5.5畳の部屋に戻る。小さな手と暖かい息が、私を小さな宇宙から現実に、優しく引き戻していく。

Illustration by fujirooll
Text by SAKO HIRANO (HEAPS)